以前に読んだことはあったのだが、先日帰省したおり本屋で見つけて電車内での暇つぶしにと購入。
かなり昔に読んだから、すっかり内容を忘れていたんだけど、うーん、やっぱすごいな。

~山国の秋はようやくふけて、碧瑠璃の湖水のおもてを、さわやかな風邪が光るように流れていく。日はまさに午(ひる)。向こうに見える犬神家の洋館のステンドグラスに、キラキラと秋の日が反射している。
 すべてが平静な、風景画のなかの一瞬だった。だが、これにもかかわらず、湖水越しに犬神家の大きな建物を望見するとき、金田一耕助はなにかしら、背筋をつらぬいて走る戦慄を禁じ得なかった~

これは序盤のワンシーンなんだけど、無茶苦茶文章上手いと思うのは俺だけ? 情景描写の美しさもさることながら、全体的に横溝の文体は無駄が少なくて読みやすいのだ。

んで、金田一耕助シリーズって一貫して独特のおどろおどろしさがあると思うんだけど、「無駄が少なくて読みやすい文章」って、おどろおろどしい感じを出しにくいはずなんだよね。本来は。
けど、犬神家の一族を含めて、横溝作品の多くはおどろおどろしい。
これは要するにプロットやキャラ造詣がしっかりしてるということなんです。

封建的な社会の頂点に君臨する“暴君”が作り出した歪み。
歪みの中で各人の思惑が交差し、複雑怪奇な事件を作り出す。
社会と動機と事件の構造(トリック)ががっしりとリンクしているからこそ、
こんなにも読みやすくておどろおどろしい作品に仕上がっているのだと納得した。

プロットは、いかにも熟練の推理小説作家が書いたという感じ。
信州の財閥の創始者が不吉な遺言を残して死亡。創始者の恩人の孫娘やら、頭巾で顔を隠した遺産の継承者やら、謎の帰還兵やら、いかにもな人々が集結し、殺人事件発生……とまぁ、どこまでも横溝な感じで目新しさはちっともないのだけど、ものすごく洗練されている。演出も非常に良い感じで、八つ墓村と並んで頻繁に映像化されるのもうなずける。
鬼気迫る真犯人の告白もGOOD。数ある真犯人の中でも屈指の怖さだと思うが、それは俺が○○愛というものについて憎悪に近い感情を持っているせいかもしれない。

ちなみに原作では佐清は白頭巾ではなく、黒頭巾をかぶっています。
(最近の復刊では白頭巾の佐清が表紙なのです。コワイ)

「本陣殺人事件こそ横溝の最高傑作だ」という俺の考えを突き崩すには至らなかったが、読んで損のない古典です。古典つーても70年代の作品だけどな。